補助金と助成金のイロハ

中小企業診断士 作成記事

長期化するコロナ禍で苦境に陥る中小企業への対策として、政府から「持続化給付金」「一時支援金」「月次支援金」「復活支援金」など立て続けに経済支援策が打ち出されました。

このような国の制度に、これまで接することのなかった中小企業が多かったせいか、補助金や助成金に対する注目度が一気に高まっています。

給付金、補助金、助成金は全て原則返済不要で、多くの中小企業がコロナ禍で経営不振に陥っている中、事業を持続していく上で非常に有益な制度です。

また、昨年、今年と、予算総額が2020年度補正予算が1兆1485億円、2021年補正予算で6000億円、補助金額の上限が最大1億円の史上最大規模の「事業再構築補助金」も実施されており、当方にも数多くの事業者の方から問合せや事業計画作成の依頼がきています。

しかし、矢継ぎ早に多くの制度が発表・実施されたので、「何が何だかよくわからない」「果たしてこの制度は自社が対象になっているの?」など、少し混乱をきたしているようでもあります。

どのような種類の支援策があるかの周知が徹底されてもおらず、応募要件や用語の意味などについても、お役所言葉が多いせいもあり、十分に理解がされていないのが現状ではないでしょうか。

ここでは代表的な公的経済支援策である「補助金」と「助成金」について内容や違いについて説明したいと思います。


1 補助金と助成金の違い


補助金も助成金も、国や地方公共団体(民間の団体で行っているものもあります)から支給されるお金のことです。当然、財源は公的な資金から出されるものですので、誰でももらえるわけではなく、申請や審査が必要になり、一定の資格が必要な場合もあります。


2 補助金とは


補助金とは事業者がある取組みをする際に、その費用の一部を国や地方自治体が支援する制度です。あらかじめ予算や採択数が決まっているケースが多く、申請したからといって必ず採択されるとは限りません。

補助金の公募の締切までに、公募要領に示されている事業計画などの必要書類を揃えて申請し、審査を経て採択・不採択が決まります。ポイントとしては、公募要領を読み込み①自社が補助金の対象になっているかを確かめ、②必要書類を揃え、③審査基準を意識した事業計画を作成することだと言えます。国の制度として経済産業省が行う施作の多くは補助金の形をとっています。


3 助成金とは


一方、助成金は公募要領に示されている要件を満たせば(100%ではありませんが)受給できる制度です。所定の様式に従い申請すること、つまり形式を整えて申請すれば、原則として給付されます。有名な助成金としては厚生労働省が管轄している「雇用調整助成金」が挙げられます。


4 補助金は第三の資金調達方法


一般的に企業の資金調達の方法として、①融資してもらう、②出資してもらうという二つの方法があります。これらは、それぞれ返済、配当をしなければいけませんが、すでに説明したように補助金・助成金については原則として返済義務はありません。従って、補助金・助成金は第三の資金調達の方法とも言え、事業の維持、継続・拡大のために積極的に活用すべきです。


5 補助金活用における注意点


①補助金は後払い

よく勘違いするケースがあるのですが、補助金の多くは後払い制となっています。先にもらえるものではありません。補助金の対象となる事業を実施し、全ての経費を支払った後に、精算・申請をしてからの入金となります。例えば、補助率⅔、補助金400万円の場合、総事業費は600万円ですので、600万円の資金をあらかじめ用意する必要があります。どうしても不足する場合は金融機関に相談し、つなぎ融資を受ける等の工夫が必要となります。

②補助期間がある

補助金の対象となる補助事業の実施期間は定められています。その期間の前や後に支出した経費は原則として補助対象外になりますので注意が必要です。

③経費支払い方法

不正を防ぐ意味もあり、経費の支払いは現金払いはNGで、原則として銀行振込というケースが多く見られます。しっかりと精算を行い申請し、使った費用が対象経費として認められないと入金しませんので、補助金専用の通帳や台帳を作るなど、スムースに経費精算できる体制を整えましょう。

④事務処理が必要

補助事業が採択されたら自動的に補助金がもらえる訳ではありません。「交付決定」(=最終的な補助金額の上限の決定)という、補助金の対象となる経費を確定させる必要があります。また、事業終了後には、一定期間内に報告書や経費支払い証憑を提出し、精算する必要があります。この提出書類がきちんと整備されていないと補助金を支払ってもらえなかったり、減額される場合があります。この作業は、慣れないと結構手間で、負担に感じる事業者さんが多いのも事実です。事務処理はきっちりする必要があるということは頭に置いておいてください。

⑤後日、検査が入る可能性

補助金をもらった事業者は、事業終了後に「ちゃんと補助事業を実施したか」という検査を受ける可能性があります。国の補助金の場合は会計検査院、都道府県の場合は県庁職員が行います。きっちりと事務処理し、費用の支出も正当で、帳簿類も整頓されていれば問題ありませんが、そのあたりがいい加減だと、検査で指摘され場合によっては返金しないといけない事もあります。「後で検査が入る」という前提で、しっかりとした事業遂行・事務処理を行う必要があります。

⑥申請は電子申請

ここ数年、補助金の申請は従来の紙ベースの申請から電子申請へと移行しています。経済産業省系の補助金はほぼ100%が「jGrants」というシステムで申請することになりました。そのためには法人・個人事業主向け認証システムである「gビズID」が必要となります。発行までに少し時間がかかりますので、補助金や助成金に申請しようと考えている方は、まずはこの「gビズID」を取得しておきましょう。

gBizIDホームページ

GビズID | Home
GビズIDは、1つのID・パスワードで様々な法人向け行政サービスにログインできるサービスです。順次、利用できる行政サービスを拡大していきます。

6 補助金情報


国や都道府県、市町村が、数多くの補助金や助成金を出しています。自社が使えるものをどうやって見つけていいか分からないとおっしゃる事業者が多いと思います。補助金を活用するには、受身ではなく、自分から積極的に情報を取りに行く姿勢が大事でもあります。最寄りの商工会議所や商工会、税理士やコンサルタントなどに確認するのも手ではありますが、全国の補助金・助成金情報は独立行政法人中小企業基盤整備機構(=中小機構)が運営している、中小企業とその支援者、創業予定者とその支援者のためのポータルサイトの「J-Net21」に整理されて掲載されています。

J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]
中小企業のビジネスを支援するポータルサイト。最新の補助金や支援・展示会情報、参考になる事例記事、役立つ経営ノウハウや起業マニュアルなど、課題解決につながる情報が満載。

メールマガジンに登録すれば全国の補助金情報もメールで届きますので、購読をお勧めします。


6 最後に


コロナ禍により、これまで社会に燻っていた潜在的な問題点や課題が前倒しされる形で浮き彫りになりました。

この数年、国の中小企業向け施策の傾向や、経済産業省・中小企業庁の担当の話を伺って感じるのですが、国としても生産性を高め、競争力をつけ、経済成長をしていく上で、生産性の低い中小企業数を減らし、中堅企業を育てようという意思があるように見受けられます。極端に言ってしまうと、税金もろくに払ってくれない企業には退場してもらい、雇用を生み、納税してくれる強い事業者を望んでおり、それを育成したいと思っているようです。

今のところは補助金に申請できる事業者の要件はかなり緩いと言えるのですが、今後は応募対象や要件を厳しく設定し、これまでの「広く浅く」を対象とするのではなく、有望な事業者を重点的に育成しようという経済支援に移行していくような気がしています。

補助金や助成金、特に補助金は前向きな投資を伴う事業に対して支援する制度です。確かに補助金を受けようとすると、煩雑な事務作業や、資金の使途、時間的な縛りや制約もあります。「補助金を受けなければよかった」という声も実際に聞かれます。ただ、補助金を受けることでリスクマネーが減少するということも事実であり、せっかくの制度ですので、借入・出資以外の第3の資金調達方法として自社のビジネスチャンスに活用していただきたいと思います。

筆者
近江大坂屋(天明4年創業) 代表 伊村睦男

(主な資格)
中小企業診断士、経営革新等支援機関(認定支援機関)、中小企業庁M&A支援機関登録、6次産業化プランナー、コミュニティビジネスコーディネーター、家庭教師のトライ・プロ講師
バトンズM&A認定パートナー

(略歴)
三菱商事でサーモン事業の投融資に従事。カーギル等の外資系企業勤務後、杉並区NPO支援センターの事務局長に就任。現在はフードビジネスを中心とするコンサルティング、スモールM&A、地域活性化などを手がける。経済情報サイト「News PIcks」専門家。家庭教師のトライで大学受験専門の英語・国語のプロ講師としても活動中。

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